『母ちゃんの分からず屋っ! 報告しにきただけだから、おれ、もう行くにゃっ!』

 チートはそう捨て台詞を吐いて、軍の施設のある方へと走っていってしまった。
 きっと、ミットー公爵のところに戻るのだろう。
 一方、生後一日未満の我が子にノックアウトされてしまったネコはよほどショックを受けたのか、仰向けに転がったまま微動だにしない。
 私の腕から飛び下りた子ネコ達が、ミーミーと鳴きながら硬直した母の顔を舐めまくる。
 心配そうな周囲の視線に急かされ、私は仕方なくネコを抱き上げた。

「えーっと……まあ、元気出しなよ。自立心の高い子で、頼もしいじゃない」
『ううう……我は、あいつが生まれてまだ数秒しか一緒に過ごしとらんのに、あんな人間のおっさんに掻っ攫われるなんて……』
「でも、ミットー公爵閣下は甲斐性のある方だし、ミケと一緒で立場上悩みが多いだろうからあの子も糧には困らないんじゃないかな? そんな心配しなくても……」
『心配なんぞしとらーんっ! この我を差し置いて、あんなおっさんに懐くのが気に入らんと言っとるんじゃあっ!』

 ネコがにゃーにゃー喚いて八つ当たりをしてくる。
 眉間に肉球スタンプを押されて非常に迷惑していると、ふいに自分を呼ぶ声が聞こえてきた。

「タマコさーん! よかった、ここにいらっしゃったんですねー!」

 息急き切って廊下の向こうから駆けてくるのは、顔見知りの若い侍女だ。
 運悪く侍従長に見つかって、廊下は走らない! と叱られ、途中からは早歩きになって私のもとまでやってきた。

「こんにちは。何かありましたか?」
「それがですね……あ、その前に! ネコさんだっこしていいですか?」
「どうぞどうぞ」
「ありがとうございます! ……ふわぁ、キマるわぁ!」

 ネコは、合法ドラッグか何かなのだろうか。
 お腹のモフモフの毛に顔を埋めてひとしきりネコを吸った侍女は、さっきより頬をツヤツヤさせながら本題に入った。

「タマコさん、少しお時間をいただけませんか? ──トライアン様が、昨日の夜から食事を召し上がってくださらないんです」