『表に出さずとも、いろいろ抱えとるようじゃなあ』

 ネコはヘソ天で寝転がって甘えると見せかけ、王妃様の胸からポロポロとこぼれ出す黒い綿毛を食らう。
 いつの間にか追いかけっこをやめていた子ネコ達もメルさんに集まり、四方八方から戯れつきつつ食事に勤しんでいた。
 私は酔いでふわふわした心地の中、そんな光景をぼんやりと眺める。

「タマ、大丈夫か? ひとまず水を飲め。つまみは食うか? 何がいい?」
「ん……おとうさん……?」
「いや、お父さんではない。せめてお兄さんにしろと言っただろう」
『そうじゃぞ、珠子! 間違えるな! お前の親は、このキュートな我だけじゃろ?』
「あらあら、うふふ……可愛い妹ができてよかったわねぇ、ミケランゼロ」

 母に揶揄われたミケはコホンとわざとらしい咳払いを返しつつ、小さなパンの上に野菜とチーズが乗ったピンチョスっぽいおつまみを私の口に入れる。
 私もお返しに、彼のグラスにワインを注いだ。
 視界の端では、子ネコまみれのメルさんもロメリアさんに軽食を勧め、さりげなくワインを飲むペースを抑えさせている。
 上戸がストッパーを務めてくれているおかげで、酒に強くない私とロメリアさんも正体をなくすほど酔う心配はなさそうだ。
 王妃様は逆に、よちよち歩いて隣に移動してきた国王様のグラスに、なみなみとワインを注ぎ足したが。
 懲りずにネコを撫でようとした国王様は、やっぱり猫パンチを食らっていた。
 ともあれ飲み会は、和やかな雰囲気のまま終わるかと思われた。
 もう何杯目かもわからないグラスを空けた国王様が、王妃様の肩を抱いて思いもよらぬ話を振るまでは。