「ロメリア様の執務室から東屋の様子が見えていたのです。そこに、タマコ嬢が向かっているのにお気づきになられまして……」
「それで、わざわざ駆けつけてくださったんですか!?」

 ロメリアさんの執務室は、私がさっきまでお茶をしていた会議室と同じく軍の施設にある。
 彼女は軍医で、半年前にナイフで刺された私の左脇腹を縫ってくれた人でもあった。
 私にとっては命の恩人ともいえる相手を足下から見上げ、ネコがフンと鼻を鳴らす。

『この女も、王子と同じ特殊嗜好の持ち主じゃな……我の魅了が一向に効かんというのに、珠子には見事に絆されておるわい』

 かわい子ぶって愛想を振り撒くネコに対しても、メルさんに抱かれてミーミー甘える子ネコ達に対しても、ロメリアさんが父や兄のようにデレる素振りはない。
 彼女はミケと同じく、ネコ達のフェロモンが効かない代わりに、私のなけなしのフェロモンに反応する体質らしかった。
 なお、この特異体質……現時点で判明しているのは、ミケとロメリアさんと、他にもう一人いるのだが、今は割愛する。

「メル、余計なことは言わなくてよろしい。おタマはさっさとなさい」

 ロメリアさんはぴしゃりとそう言うと、ネコをハンドバッグみたいに小脇に抱えた。

「ロメリアさんって、ネコには全然デレないのに、邪険にもなさいませんよね」
「ええ、ロメリア様はお優しい方ですから。小さきもの、弱きものは、殊更大切になさいます」

 子ネコまみれでほくほくのメルさんとそう言い交わしつつ、私はさっさと歩き出した美しい人を追いかける。
 一方、三人の令嬢達は呆然と立ち尽くしていた。
 最後までロメリアさんには一瞥さえももらえず、しかも、自慢のドレスはひっつき虫だらけという惨めな姿に、私はついつい同情しかけたが……