「どうして……どうして、殿下のみならずロメリア様まで、この女に心をお砕きになるのですかっ!」
「私達は、ロメリア様を差し置いて、こんな得体の知れない女が殿下のお側に置かれるのは納得がいかないのですっ!」
「ネコ達だけ残して、この女は即刻城から……いいえ、ベルンハルトからも摘み出してしまいましょう!」

 私に対する負の感情を爆発させた彼女達が、再び手を伸ばしてこようとした。
 その鬼気迫る表情に、子ネコ達が毛を膨らませて威嚇する。
 しかしながら、令嬢達の手が私に届くことはなかった。


「タマコ嬢に、お手を触れないでいただけますか。ロメリア様はそれをお許しになりませんよ」


 涼やかな声でそう告げて令嬢達の前に立ち塞がったのは、ロメリアさんとともにバラのトンネルから現れた、もう一人の女性。
 彼女は、すらりと背の高い男装の麗人だった。

「メルさん、こんにちは」
「「「「「ミーミーミー!」」」」」
「こんにちは、タマコ嬢。ふふ……子ネコさん達も、ごきげんよう」
 
 メル・ヒバート──メルさんは、ストレートの長い黒髪をポニーテールにし、ミケや将官達とは異なる真っ白い軍服を身に着けていた。
 凛々しい出立ちだが、私の肩や頭から飛び移ってきた子ネコ達に擦り寄られ、くすぐったそうに笑う姿は可愛らしい。
 メルさんはベルンハルト王国軍に所属しているわけではなく、ロメリアさん専属のボディガードであるらしい。男爵家の令嬢で、ミットー公爵家とは遠縁に当たるのだとか。
 二人ともミケと同い年なので、私より五つばかりお姉さんである。
 令嬢達は、腰に剣を提げたメルさんの登場に一瞬たじろいだが、彼女の中性的な美貌を目にするとたちまち頬を染めた。
 メルさんはそれに苦笑いを浮かべつつ、私の耳元に囁く。