『おーい、待て待て、公爵家の娘! このキュートなネコちゃんを抱っこせいっ!』

 またもや私の腕から飛び下りたネコが、なあんなあんと猫撫で声を上げながらロメリアさんを追った。
 世界征服を目論むネコとしては、王家に次ぐほどの地位にあるミットー公爵家も全員押さえておきたいのだろう。
 その声に気づいて立ち止まったロメリアさんが、足下に擦り寄るネコを無感動な目で見下ろす。
 かと思ったら私に向き直り、白い顎をツンと反らして言った。

「そんなところでいつまでも油を売っているなんて、おタマは随分とお暇なのかしら。いいご身分ですわね」

 その高圧的な口ぶりは、小説や漫画の中でヒロインをいじめる悪役令嬢をイメージさせる。
 しかし、令嬢達に意地悪を言われた時とは違い、ロメリアさんに対して感じが悪いなんて、私は少しも思わなかった。

「ロメリアさん、王宮まで一緒に行ってくださるんですか?」
「そのようなこと、わざわざ尋ねずともわかりますでしょう。察しのよろしくない方とは、会話したくありませんわ」
「えへへ、そうおっしゃらずに。私は、もっとロメリアさんとお話ししたいです」
「まあ……相変わらず、おタマはおかしな子ですこと」

 ロメリアさんの言葉を額面通りにとってはいけないのは、私はこの半年の付き合いでよくよく理解している。
 なにしろ彼女はマンチカンの方のミケにも引けを取らない、ツンツンツンツンツンデレなのだ。
 ぐずぐずしている私への嫌味に聞こえる今の言葉だって意訳をすると、おタマ、早くこちらにいらっしゃい、だ。
 するとここで、ロメリアさんに見向きもされなかった令嬢達がわなわなと震え出す。