「あ、あなた! なんてことをしてくれたのっ!」
「仕立てたばかりのドレスですのに! どうしてくれるのかしらっ!」
「ひいっ! びっしり! こわい! やばい!」

 涙目でこちらを睨みつけながら、肩を怒らせた令嬢達がズンズンと近づいてくる。
 その際、件の茂みを踏み荒らしたせいで、彼女達のドレスの裾にはさらにひっつき虫が増えた。

『おおっ、見ろ! すごい顔じゃな! 山姥みたいじゃわい!』
「山姥の概念も、私の中にあったの?」

 目の前まで迫った令嬢達の形相は、確かに凄まじかった。
 もしも私が猫だったなら、耳を横に倒してイカ耳になっていたに違いない。

「お、落ち着いてください……といいますか、もしかして私に怒ってます?」
「「「だって、ネコちゃんに怒れるわけがないでしょう!!」」」
「アッハイ……ごもっともで……」
『お? お? やんのか? やんのか、こら!』

 当のネコは猫パンチで応戦する気満々だ。
 子ネコ達も興奮して、私の肩や頭の上で跳ね回り始めた。
 
「あなた! ちょっと殿下に目をかけられているからって、調子に乗っているんじゃありませんこと?」

 令嬢の一人が、私に掴み掛からんと手を伸ばしてくる。
 ネコのクリームパンみたいな前足の先から、シャキンと爪が飛び出した。
 子ネコ達も臨戦体制に入り、ついにリアルキャットファイトが始まってしまうのかと思った──その時だった。

 
「随分と騒がしいですこと」