『別の世界から来たというだけで、怪しまれてもおかしくないんじゃ。その上、人間の心に影響を及ぼす力があるなどと知られれば、異端とみなされる。その先にあるのは迫害じゃぞ』
「魔女狩りみたいな? ミケは、そんなことしないと思うけど……」
『あの王子はそうであろうと、他の大多数が同じ考えとは限らん。下手にあれを巻き込めば、王子をたぶらかしたとして反感を買う可能性もあるしな。余計なことは口にせんに限る』
「……わかった」

 今度は素直に頷いた私を褒めるみたいに、ネコが頬を舐めてくる。
 私の中にあった猫の概念を忠実に再現しているため、舌もざらざらしていて痛かった。
 ネコは私の頬が赤くなるまで舐めると、ふいにひげ袋を引き上げて歯を剥き出し、フレーメン反応を起こしたような顔で笑う。

『しっかし、あの王子が我の愛らしさに一向に靡かぬのには参ったが……ぬふふふふ。珠子には相当心を砕いているようじゃないか? ぐへへへへへ……』
「その笑い方、どうにかならない? まあ、ミケを庇う形で私が怪我をしちゃったからだよね。ただでさえ気苦労が多いんだから、私のことは気に病まないでもらいたいんだけど……」

 私自身はミケを庇ったという自覚がないため、彼に見返りを求めるつもりなど毛頭ないのだ。
 むしろ、今現在何不自由ない生活をさせてもらえていること──何より、素性もわからない自分が受け入れられ、尊厳を守ってもらえていることに、言い表せないほどの感謝を覚えている。

「人見知りが改善した分、以前の私よりもきっとがんばれると思うんだよね。ミケや、この世界にきてお世話になった人達のためになら……」

 誰かの役に立とうなんて、半年前までは思いつきもしなかった。
 自分のことだけで精一杯だったから。
 けれど今は、私にも何かできることがあるんじゃないか、と前向きになれた。
 その余裕を与えてくれた筆頭はミケであり、だからこそ私は、彼の役に立ちたい。
 ところがネコは、そんな私の頬をピンク色の肉球でピタピタ叩いて、とんでもないことを言い出した。