『とにかく! 我の細胞がなければ、珠子は今、生きてはおらんのじゃぞ! いい加減、我のことを母上様と呼ばんかっ!』
「えっ、いやですけど……」
『くううっ……まったくもって、生意気な娘じゃわいっ!』
「そもそも、そんな死にかける状況になったのって、あなたの異世界転移に巻き込まれたせいなんだけど……」

 やがて、私達は庭園の中程にあるバラのトンネルに差し掛かる。
 色とりどりのバラの花からは甘く優雅な香りがするが、あいにくネコ達のそれほど魅力的には感じなかった。
 ネコの前身である毛玉は、私の元いた世界を素通りしようとしていたらしい。
 その理由が、猫という強力なライバルの存在を察知し、人間の愛情を独占するのは困難である、と判断したためだというから納得である。
 この時点のネコには意思も感情もなく、すべては本能に従ってのことだった。
 それが今や、私の肩や頭で遊んでいた子ネコ達を側に呼び寄せると、これ見よがしにため息を吐いて言うのだ。

『まったく、珠子ほど手の掛かる娘は知らんな! お前達、不出来な姉をしっかりと支えてやるんじゃぞ!』
「「「「「ミー!」」」」」

 母ネコの言葉に、子ネコ達が一斉に返事をする。
 私と細胞の一部が入れ替わったことにより、異世界生物改めネコは、自身から分裂した存在に対して母性のような人間的感情を抱くようになった。
 その擬似家族のカテゴリーに、私も問答無用で含まれており、なおかつ長女という位置付けらしい。
 しかし、自称〝母上様〟は、そんなファミリーの事情をこちらの世界の人間──ミケにさえも、打ち明けることを許さなかった。