「──あら、殿下とおタマ、その他もろもろ、ごきげんよう」


 午後のお茶の時間に差し掛かった頃、街角のとある店先で、美しい人が私達を手招きした。ロメリアさんだ。
 もちろん、メルさんとソマリの姿もある。
 彼女達も、本日は仕事が休みらしい。

『その他もろもろとは何じゃあ! まったく、おネコ様への敬意が足らんぞっ!』
『うふふ、母様、珠子姉様、ごきげんよう。ミケにゃんと大きい弟もお元気そうでなによりですわ』
「ミケにゃんって何だ」
『ソマリ姉さん、こんちわー』

 町の一等地にあるこのこぢんまりとした紅茶の店は、ミットー公爵家ではなく、ロメリアさん個人の所有らしい。
 外壁に蔦が伝ったアンティークな佇まいの店で、内装も質素ながら洗練された印象を受ける。
 ロメリアさんは、そのテラス席でメルさんを侍らせてカップを傾けていた。
 戦場まで同行した軍医でもある彼女は、こうして一般人に混じってお茶を飲むことにも抵抗がないようだ。
 そしてそれは、ミケにも言えることだった。

「メル、私とタマと……このデッカいレーヴェに食えそうものがあれば、出してもらってくれるか」
「かしこまりました、殿下」

 ミケはメルさんに注文を丸投げすると、ロメリアさんの向かいの席に腰を下ろす。
 丸いテーブルを囲う四人席のため、当たり前のようにミケの隣に座らされた私は、必然的に彼とロメリアさんに挟まれる形となった。
 王子にして国家の英雄と、美の結晶のような公爵令嬢の間に座らされた私は、肩身が狭い心地がしたが……

『よっこらせっと』
『ごめんあそばせ』

 空いていたもう一つの席に、澄ました顔をしたネコとソマリが仲良く腰を下ろしたことで、周囲の人々の視線が和む。
 元祖チートは、彼女達の椅子の隣にお行儀よくおすわりをした。

「あら、おタマ。あなた……」

 そんな中、私とミケの注文を済ませたロメリアさんが、ふいに手を伸ばしてくる。
 彼女の白魚のような手が、私の右サイドの髪を掻き上げて耳にかけさせた。
 露になった右耳には、ミケに買ってもらったイヤーカフをさっそく付けていた。
 それをまじまじと眺めたロメリアさんが、ミケに視線を移して麗しい唇の両端を釣り上げる。