「まあ、おタマ? 急に立ち止まったかと思いましたら……何ですの。有象無象の相手をしている暇などございませんでしょう。おタマは、陛下から重要な使命を賜っているのですから」
「ふふ……〝なんかいい感じのワイン〟を譲っていただけるよう、侍従長様におねだりに行くだけなんですけどね」

 立ち止まっていた元祖チートのお尻をぺちんと叩いて前に出たのは、私に絡んできた令嬢達よりずっと身分の高いミットー公爵令嬢ロメリアさんと、その護衛役のメルさんだ。

「「「ロ、ロメリア様……メルさん……」」」

 令嬢達は、とたんにオロオロし始める。
 ラーガスト王国への道中に私を攫ったメルさんと、彼女に私の暗殺を命じていたその父ヒバート男爵は処罰を受けた。
 ヒバート男爵は奪爵の上、汚職にも手を染めていたことが判明して王都から追放され、ヒバート家は実質お家取り潰しとなった。
 メルさんは姓を取り上げられ王家に隷属することとなり、現在は出向という形でロメリアさんに付いているが、その表情に以前のような憂いはない。
 そんなメルさんに笑顔で牽制され、ロメリアさんに至っては視線さえ向けられなかった令嬢達が、今度は涙ぐんで言い募った。

「ロメリア様は、本当にこのままでよろしいのですかっ!」
「こんな、どこの馬の骨ともわからぬ女に、殿下の隣を許してしまわれるなんて……私達は納得いきませんわ!」
「やはり、ネコ達だけ残して、この女は即刻城から……いいえ、ベルンハルトからも摘み出してしまいましょう!」

 私に対する負の感情を爆発させた彼女達が、一斉に手を伸ばしてこようとした。
 その鬼気迫る表情に、子ネコ達が毛を膨らませて威嚇する。
 しかしながら、令嬢達の手から私を守ってくれたのは、前回そうしてくれたメルさんでも、巨大な肉食獣である元祖チートでもなかった。