ラーガスト王国の森から付いてきたライガーサイズのレーヴェで、なぜか私の弟ポジションに収まってしまった元祖チートである。
 巨大な肉食獣の登場に引き攣った悲鳴を上げた令嬢達が、ズサササッと後退った。
 すると、元祖チートの背に乗っていたネコが舌舐めずりをして言う。

『ぐっふっふっ、懲りない小娘達じゃな。おい、お前達。うちの珠子をいじめようとする性悪女どもを成敗しにゆくぞ。この母について参れ』
『はいにゃ、かーちゃん!』
『腕が鳴りますわね』

 さらに、後ろにいたらしい小さい方のチートとソマリも顔を出す。
 三匹は、いつぞやネコがそうしたように、ガサガサと音を立て、東屋の手前にある茂みに分け入った。
 そうして、にゃあん、猫撫で声を上げながら近づいてきた彼らに、令嬢達はたちまちメロメロになった。

「まあまあまあ! なんて可愛らしいのかしら!」
「見てごらんなさい! 毛がふわふわだわ! 抱っこしたい!」
「三匹ともまとめて抱っこしたいですわ!」

 ネコ一家に夢中の令嬢達は、もはや私の存在なんか忘れてしまったようだ。
 ただし、もちろんネコの方は、今回もただ彼女達の負の感情を摘みにいっただけではなかった。

「「「キャーッ!!」」」

 案の定、令嬢達が絹を裂くよう悲鳴を上げる。
 ネコが、チートやソマリと一緒にひっつき虫ビッシリの刑を執行したようだ。
 涙目の令嬢達はネコ達を東屋に残したまま、肩を怒らせてズンズンとこちらに近づいてくる。
 その際、件の茂みを踏み荒らしたせいで、彼女達のドレスの裾にはさらにひっつき虫が増えた。

「「「あ、あなた! 一度ならず二度までも! なんてことをしてくれたのっ!」」」
「いや、私は何もしていないんですけど……やっぱり、私に怒ってるんです?」
「「「だって、ネコちゃん達に怒れるわけがないでしょう!!」」」
「アッハイ……ごもっともで……」
『こわい……怖いお姉さん達だにゃ!』

 令嬢達の形相に、元祖チートがイカ耳になる。
 しかしここで、バラのトンネルからは、私の新たな援軍が現れた。