「──あなた、お待ちなさい」


 ふいに飛んできた高慢そうな声に、私は足を止める。
 ちょうど、軍の施設と王宮の間に作られた庭園にある、バラのトンネルを抜けた時のことだ。
 西の山際に太陽がかかり、ベルンハルト城も茜色を帯び始めていた。
 ミーミーと愛らしい鳴き声を上げる五匹の子ネコを抱え直し、私は首を傾げる。

「えっと、何か御用でしょうか?」

 声をかけてきたのは、以前もこの場所で私に絡んできた、三人組の若い令嬢達だった。
 身内に武官がいないこともあり、先のラーガスト王国との戦争にも無関心な者達ばかりだ。
 前回と同じく噴水近くの東屋にたむろしていた彼女達は、終戦とともにベルンハルト城に住み始めた私をいまだ警戒していた。

「あなた、いまだに殿下のお隣の部屋で寝起きしているのですって?」
「貴族でもないそうですのに、烏滸がましいのではありませんこと?」
「そもそもあなた、いったいいつまでベルンハルトにいるつもりですの?」

 日が沈み始めて解散しようとしていたところに、私が子ネコ達を連れて一人で現れたのをこれ幸いと、絡んできたようだ。
 しかし、私が彼女達の質問に答える機会はなかった。
 私に続いて、バラのトンネルから現れたものが先に口を開いたからだ。

『タマコ姉さんをいじめるにゃ』
「「「ひいっ……!?」」」