「どんな理由があろうと、子供を蔑ろにしていいはずがない」
『そうじゃ! 珠子は、己が受けた理不尽な仕打ちも──母親も、許さんでいい!』

 ミケが、ネコが、きっぱりとそう言い切ってくれる。
 母は、私の名付けに関しては被害者だったかもしれないが、私の人生に対しては加害者だった。
 
「それでも、大人になるまで家には置いてもらえたわけですし……将来、父や母が年をとって動けなくなったりしたら助けるべきなのかなって、考えたりもしていたんですけど……でも、もう元の世界には帰れないんだよね?」

 ちょん、とネコと鼻キスをしながら問う。
 ネコは、そんな私の鼻もザリザリと舐めて答えた。

『うむ! 我としては不本意じゃがな! 元の世界どころか、他のどの世界にもゆけん! 我も、珠子も、きょうだい達も、みーんな仲良くこの世界に永住じゃいっ!!』
「ってなわけですので、私には二度と家に帰れない理由ができてしまいました──おかげで、ほっとしています」
「そうか、それはよかった……まあ、そんな理由がなかったとしても、生き辛い思いをさせた世界になど、タマは絶対に返さんつもりでいたがな」

 そういえば、猫カフェ店員時代の辛い体験を打ち明けた時も、ミケは同じようなことを言っていた。
 異世界で出会った心強い味方に背中を預け、ほっと安堵の息をつく。

(私には、もう母と分かり合えるチャンスも、それを望む気持ちもない……)

 それは、父を愛しながらも憎み、ついにはヒバート家自体を潰そうと決意してしまったメルさんも同じだ。
 だから、まだ時間も希望もあるトラちゃんには、できれば母カタリナさんと関係をやり直す方向に進んでもらいたい。
 そう願うのはエゴだという自覚があるから、彼に伝えるつもりはないが。
 ともあれ……