「やっと、厄介払いができるって顔をしてて……私は二度と、この家に帰ってこない方がいいんだって思いました」
「……すまない、タマ。もういい。辛い話をさせて、悪かった」

 私よりもよほど苦しそうな声で、ミケが言う。
 ここで初めて、私は後ろを振り返った。
 ミケが、わずかに目を見張る。
 めちゃくちゃ重い話をしていたというのに、私が案外平気そうな顔をしていたからだろう。
 しかし、別段強がっているわけではなかった。

「私は別に、家族を……母を、憎んでいるわけではないんですよね」
「ああ……」
「でも、好きかって聞かれると……頷くのは、難しいです」
「そうか……」

 ミケが、髪を撫でてくれる。
 元の世界で、終ぞ母からは与えてもらえなかった優しさだ。
 ネコも、また私の顎の下にしきりに顔を擦り付けてきた。
 私は前を向き直し、語り続ける。

「産んでもらったからって無条件で親を愛さなければいけないのか、何があっても受け入れないといけないのか、ってトラちゃんに聞かれたんです」

 あの時、私とトラちゃんがいたテラスの真上の階に居合わせ、ミケもこの話を聞いていた。

「どうしたいのかは自分で決めていいし、愛さないのも受け入れないのも生まれ持った権利だよって伝えたんですけど……あれは結局、私自身が言ってほしい言葉だったんですよね」

 我が子の名付けを横取りされた母を、気の毒に思う。
 腹が立っただろうし悔しかっただろう。
 当時の彼女の気持ちを想像することは難しくない。
 それでも……