『なーにを驚いておるか! 王子の記憶がお前に入ったんじゃから、その逆──珠子の記憶が王子の方に行っとろうが、何ら不思議ではなかろうっ!』
「あ、そうか……うん、そうだ、ね……」

 記憶が共有されているといっても、私はミケが兄を亡くした場面しか知らない。
 ミケに共有されたのも、私の記憶のほんの一部、しかも断片的なものでしかなかったようだ。
 そう断った上で、ミケが続ける。

「記憶の中のタマは……家族との関係があまりにも希薄に感じた」
「は、はい……」
「この半年、お前の口から家族の話が一切出なかったことから、家族との関係がうまくいっていなかったのではないか、と推測してはいたんだが……」
「そう、ですか……」

 ミケは、慎重に言葉を選んでいる様子だった。
 けれども、次の瞬間……


「タマ──家族との間に、何があった?」


 単刀直入に問われ、私は思わず閉口する。
 一部の記憶を共有しただけの自分が意見を言うのは烏滸がましい。
 そう思って、ミケに慰めの言葉すらかけられなかった私と違い、彼は遠慮なくこちらに踏み込んできた。
 パーソナルスペースも何もあったものではないが……

(よくよく考えたら、この世界で目覚めた時から、そもそもミケとはゼロ距離だったわ……)

 それを思うと、もはやミケに対して取り繕うのも馬鹿らしい気がした。
 私は、頬をムニムニしてくるネコを両腕で抱き締める。
 そうして、いつもミケが私にするみたいに、その真っ白い毛に顔を埋めて言った。

 
「何もないんですよ、ミケ──私と家族の間には、愛情も、絆も、思い出も、何一つ、ないんです」