「犯人の姿は、見たのか?」
「顔が見えました。右目の下に泣き黒子がある男の人……マルカリヤンさんが、ラーガスト国王を唆したかもしれないって言っていた人の特徴を聞いた時、ドキッとしました」
「ああ、そうだな……私もだ……」
「あのっ……自分の記憶を勝手に共有されるなんて、いやですよね! もちろん、絶対に他言はしませんので!」

 慌ててそう言う私の髪を、ミケは手綱から片手を離して撫でた。
 しばらくの間、私達の間に沈黙が流れる。
 地面を蹴る蹄の音と、後続の馬車の車輪の音だけが、そのまま永遠に続くかと思われた。
 やがて、ふう、とため息が聞こえてくる。
 後ろのミケではなく、私の前に陣取ったネコだ。
 ネコは、私越しにミケをじろりと睨んで言った。

『言いたいことがあるのなら、はっきり言わんかい』
「わかっている」

 何やらネコに急かされたミケは、私の髪を撫でながらようやく重い口を開く。

「タマが私の記憶を持っているのは……本当は、予想していたことなんだ」
「えっと、それはどうして……」
「私も、持っているからだ──おそらくは、この世界に来る前の、タマの記憶を」
「えっ……」

 ミケの言葉に凍りついた私を、すかさず解凍するのもネコだ。
 ネコはくるりと振り返って後ろ足で立ち上がる。
 そうして、クリームパンみたいな両の前足で私の頬を挟んだ。