「タマ……マルカリヤンの騒ぎがあった時から、実はずっと気になっていたんだが」
「はい、何でしょう?」
「私が兄を亡くしていると、タマは知っていたのか? マルカリヤンがその話題を出した時、驚いてはいなかっただろう」
「あっ、はい……知っていました。ラーガスト行きが決まる前に、国王様と王妃様から伝えられまして……」

 さらに、私は前を向いたままミケに打ち明ける。
 ネコを含めた二人と一匹で崖から落ちた後、おそらくは転移の際の影響で、レオナルド王子が殺された場面の記憶が共有されたことを。
 しばしの沈黙の後、私のつむじにはミケのため息が降ってきた。

「……兄が、私を庇ったせいで殺されたのも、知ったんだな」

 ミケは兄を助けられなかったことを悔いている、と国王様は言っていた。
 亡き兄の分まで、自分が王子として祖国に尽くさねばという思いに囚われ、背負い込みすぎる傾向にあるとも。
 きっと、兄が自分を庇う形で亡くなったことによる罪悪感も、楔となって彼の心に食い込み続けているのだろう。

〝ミケのせいじゃない〟

〝お兄さんはきっと、ミケを守れて本望だった〟

 喉まで出かけたそんな言葉を、私は慌てて飲み込んだ。

(一部の記憶を共有しただけの私が、安っぽい慰めを口にするなんて、烏滸がましいよ……)

 私は何も言わずに、いや何も言えないまま、自分の前で手綱を握っているミケの手を撫でる。
 また一つ、小さなため息が私のつむじに落ちた。