「あのぅ、ミケさん? 馬に乗ると、私のお尻が死ぬんですが……」
「死ぬなんて言葉を容易に使うな。大丈夫だ、正しい乗り方をすれば痛まない。まずは上半身を正して、坐骨で座るんだ」
「ざこつ……どこ……そんな骨はありません」
「いや、あるだろう」

 後ろから抱きかかえられるようにして、ミケの愛馬に跨る。
 前回メルさんと馬に乗った時とは、感覚はかなり違った。
 メルさんよりも体格のいいミケの補助があるため安定感はある。
 ただし、こちらの馬の方がずっと大きいせいで、地面までが遠くて身が竦んだ。

『おい、王子! 間違えても珠子を落とすんじゃないぞっ!』
「言われなくとも」

 ネコも、ちゃっかり私の前に陣取っていた。
 にゃんにゃん騒がしい背中のモフモフに、馬が一瞬迷惑そうな顔をして振り返る。
 やがて、小麦畑の間を通る馬車道に差し掛かった。
 ラーガストに向かう際は黄金色の穂が風に靡いていたが、すでに刈り取られ、今では稲孫の緑が揺れている。
 整備された広い道の先にうっすらとベルンハルト城のシルエットが見え始め、私達はしみじみと呟いた。

「いろいろありましたけど、帰ってきましたね」
「本当にな……タマを連れて帰ってこられて、よかった」

 ポスッと私の後頭部に顔を埋め、ミケは大きく一つため息を吐いた。
 彼の賢い馬は、主人が前を見ることを放棄していても、つつがなく進んでいく。
 私も、されるがままに任せていた。
 トラちゃんに言ったとおり、ミケを甘えさせられるのは自分だけだと思っているし、今はそれを誇らしく感じているからだ。
 心ゆくまで私を吸ったミケは、やがて意を決したみたいに口を開いた。