「──あれ? あの末っ子ちゃん……もしかして、トラちゃんのを食べてる!?」
『ううーむ……トライアン自身があの子に心を許したことで、通じ合うものがあったのかもしれんな』

 トラちゃんの肩に乗った小さな子ネコが、彼から黒い綿毛を取り出してモグモグしているのを目の当たりにし、私はネコとコソコソ言い交わす。
 側にいてほしいというトラちゃんのお願いを断った罪悪感は、どうあっても消えない。
 こうして見送りに立ってくれた彼が、その笑顔の裏にどれだけの負の感情を隠しているのかと思うと不安にもなった。
 けれど、あの小さな子ネコがせっせとそれを食べ、トラちゃんを癒やそうとしているのを見て、私は少しだけ後ろめたさが和らいだ気がした。 



「──帰ろう、ベルンハルトに」



 ミケの出立の合図とともに、馬車が走り出す。

 私はその窓から身を乗り出し、トラちゃんの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。