「タマコ、道中気をつけて。またね」
「うん、トラちゃん……またね」

 嘘泣きまでして私を引き止めようとしたというのに、トラちゃんとの別れは案外あっさりとしたものだった。
 彼とカタリナさんの関係改善の兆しはまだ見えないが、革命軍の代表はもう無理強いするつもりはないようだ。
 総督府に駐留するベルンハルト王国軍も半数が交代し、将官の中では准将が残ることとなった。
 ここまでの道中でトラちゃんと接する機会が多かったため、彼を心配しての決断である。
 そして……

「ニー! ニーニー、ニー!」

 トラちゃんの肩の上で元気な声を上げるのは、ずっと彼にベッタリだった小さな子ネコ。
 このネコ一家の末っ子も、総督府に残るらしい。
 それを知ったネコは、案の定身悶えした。

『ふぐぐぐぐっ……こんなに早く嫁に出すことになろうとはっ!』

 私の腕の中で、ネコは苦悶の表情を浮かべている。
 親孝行な三匹の子ネコ達が、その顔をベロベロと舐めた。

『心配じゃあ……心配じゃが……我らネコファミリーによる世界征服の第一歩と思わば、やむをえんのかっ!』
「何やら、物騒な話になっているな……タマ、世界征服とは何のことだ?」
「何のことでしょうね」

 そんな中、思わぬことが判明する。
 トラちゃんが、ミケやロメリアさんと同様に私のフェロモンだけに反応する体質であるのは、ネコ一家の中では周知の事実だった。
 そのため、せっかく子ネコが側にいても、彼の負の感情を取り除くことはできないと思っていたのだが……