私はぽかんと口を開けたまま、ミケとトラちゃんの顔を見比べた。
 ミケの言う通り、トラちゃんは途中で彼がいるのに気づいたが、引っ込みがつかなくなって話を続けたらしい。
 そんなこととは露知らず、私は……

「わーっ! ミケが猫ちゃんみたいに甘えられるのは自分だけ、なんて調子こいたの聞かれちゃった! はずかしいいいっ!!」
『そうじゃぞ、珠子ぉ! 王子が猫ちゃんみたいなどと、烏滸がましいにもほどがあろうっ! 猫ちゃんを名乗るには圧倒的に愛らしさが足りーんっ!』

 元祖チートの頭頂部に顔を突っ伏す私に、ネコが見当違いなツッコミを入れる。

「何も恥ずかしがる必要はないだろう。事実だしな。お望みとあらば見せてやろうか、トライアン──私が、人目も憚らずタマにデレまくる姿を」
「いいえ、けっこうです」

 ミケとトラちゃんのやりとりに、おじさん連中がどっと笑った。
 おかげで空気は和らぐ。
 トラちゃんは小さなため息を吐くと、私の後頭部をなでなでした。
 そして、二階にまでは届かないくらいの小さな声で呟く。

「まあ、いいや──他の方法を探るから」
「え……」

 トラちゃんの言葉の真意を知るのは、まだずっと先になる。

 それから二日後──私は、彼を残してベルンハルト王国へ戻ることになった。