「ミケは大人だし、強いし、信頼できる人もいっぱいいるけど──でも、彼が猫ちゃんみたいになって甘えられる相手は、今のところ私だけだと自負してるんだ」
「……ネコ?」
 
 トラちゃんが呆気に取られたような顔になる。
 それからふと、上目遣いに宙を睨むと、ふるふると首を横に振った。

「ネコっていうより、レーヴェでしょ。あの人が甘える姿とか、全然想像できないんだけど……」
「いやいやいや。ミケさん結構、公衆の面前でもやらかしてるよ?」
「それはそれで、大丈夫なの? ベルンハルト王子の沽券に関わらない?」
「正直、私もそれは心配してる」

 トラちゃんが、私の肩から手を離す。
 そのまま俯いてしまった彼を見て、罪悪感で胸がぎゅっと苦しくなった。
 三匹の子ネコ達や元祖チートがトラちゃんの顔を下から覗き込む。

「ニー……」

 末っ子の小さな子ネコは、殊更心配そうに彼に寄り添った。
 やがて顔を上げたトラちゃんの蜂蜜色の瞳は、うるうるに潤んでいた。

「ねえ、タマコ……どうしても? どうしても、僕の側にはいてくれないの……?」
「うっ……」
「タマコは……僕のこと、きらい?」
「そ、そんなわけないっ! 絶対、ないっ!!」

 何かを選べば、何かを捨てることになる。
 頭ではわかっていたが、私は今までこれほど辛い選択をしたことがなかった。

(トラちゃんを、悲しませたくない──!)

 それでも私は、彼のお願いではなく、自分の望みを──ミケの側にいることを選んでしまった。

「ごめん、トラちゃん……ごめんなさい……」

 罪悪感で頭の中がいっぱいになって、ついにはトラちゃんを直視することもできなくなる。

『タマコ姉さん、泣かないでにゃん……』
「「「ミー、ミー……」」」

 今度は私が俯き、大小のモフモフ達に顔を覗き込まれる番となった──その時だった。
 


「──おい、トライアン。タマを困らせるのはやめろ」