「おい、ネコ。タマを引っ掻いたら承知しないぞ」
『ぐぎぎぎっ、この王子めっ……相変わらず、ちらりとも我には魅了されんな! そのくせ、珠子のような毛並みが貧相な小娘に絆されるとは……もしや、特殊嗜好の持ち主なのか!?』
「……今、私の悪口を言いやがっただろう? そんな顔をしている。間違いない」
「ついでに、私の悪口も言いやがりましたね。そんな顔をしてます。間違いないです」

 ミケの嗜好が特殊かどうかはともかく、自分や子ネコ達の毛並みを基準にして私を禿げているみたいに言わないでもらいたいものだ。
 どうやらミケは彼らのフェロモンが効かない体質らしく、将官達のようにメロメロになる素振りがない。
 その代わり、私が発するわずかなフェロモンに反応して癒やしを得ている、というのがネコの見解だった。
 沽券を犠牲にして私を吸うのも、彼にとってはあながち無意味ではないようだ。

『このっ……このこのこのっ! 離せえええっ……!』

 ジタバタ暴れてミケの手から逃れたネコは、長テーブルの上を大慌てで駆け戻る。さっきの優雅なモデルウォーキングとは大違いの、実にみっともない走り方だ。
 その拍子に、ネコにくっ付いていた子ネコ達が振り落とされ、長テーブルの上にポテポテと落ちていく。
 おやおや、とそれを一匹ずつ拾った将官達が、再びデレデレし始めた。
 ネコは末席に着いていた准将の頭に駆け上がると、何食わぬ顔をしてカップに口を付け始めた私を涙目で睨んでくる。
 頭をゲシゲシ足蹴にされながらも、准将がうっとりとして言った。