「トラちゃん自身が望まないなら、親子関係を無理に修復する必要はないって、私は思うよ」
「僕が……全部決めて、いいのかな……」
「トラちゃんが決めていいんだよ。トラちゃんのことは、トラちゃん自身の気持ちが一番大事だもの」
「そっか……うん、そうだよね」
 
 トラちゃんは安心したように小さく笑って、私の肩に頭を乗せた。
 じわりと彼の身の内から溢れる黒い綿毛を、私はさりげなく手で払う。

「「「ミーミー! ミー!」」」
「ニー! ニーニー!」

 ふわふわと宙に舞うそれを、子ネコ達が追いかけては食べていった。
 一週間近くに及ぶ旅に続き、総督府に到着してからも慌ただしい毎日で、トラちゃんも疲れが溜まっている様子だ。
 長めの前髪を掻き上げて額に触れるが、幸い熱はなさそうだった。
 蜂蜜みたいな金色の目が、私の一挙手一投足を見つめている。
 ふいに、トラちゃんは私の袖をちょんと摘んで言った。
 
「タマコ、あのね……タマコにお願いがあるんだけど……」
「うん、なぁに?」

 何やらもじもじしているのが可愛くて、私はにっこりしてしまう。
 もしかしたら計算の上かもしれないが、あざとかろうと可愛いものは可愛いのだ。
 それに、仕草は可愛らしいが、トラちゃんの目は真剣だった。

「僕……タマコと離れたくない。このままラーガストに──僕の側に残ってほしいんだ」
「そ、それは……」

 私は返事に窮する。
 膝の上に顎を乗せて微睡んでいた元祖チートがぴくりと耳を震わせ、瞼を上げた。