ところが、往生際の悪い革命軍の代表が、歩き出そうとする私を引き止めようと手を伸ばし……

『タマコ姉さんに、触んにゃ』
「ひっ……!」

 私の脇からにゅっと出てきた大きな顔──その口の中にぞろりと並んだ牙を見て、慌てて引っ込めた。
 ライガーサイズのレーヴェ、元祖チートである。
 実は、私の後ろでずっと大人しくしていたのだが、革命軍の代表が私に触れようとするのは看過できなかったらしい。

「いや、待って!? あなたまで私の弟ポジションなの!?」
『だって、おれ、新参者だにゃん!』

 ミットー公爵と再び離れ離れになるのを嫌がった彼は、なんとこのままベルンハルト王国に連れて帰られることになった。
 ミットー公爵を噛んで手放されて以降、一切人間を襲っていないことから、今後も人間を傷つけないこと、首輪とリードを受け入れることを条件に、ミケが許可を出したのだ。
 なお、チートという名前に関しては、ネコの毛玉から変化した方のチートも譲らなかったため、どちらもそれを名乗ることになった。

「ややこしいけど……しょうがないね」
『しょうがないにゃ。おれも、小さい同朋も、ミットーさんにもらったこの名前が、大好きなんだにゃん!』

 首輪もリードも付け、なでてなでて、とスリスリ顔を擦り付けて甘えてくる姿は完全に飼い慣らされたペットだ。
 しかし、尋常ではなく体も牙も大きいために、絶対に人間を襲うことはないと言われようとも、本能的に恐れを抱いてしまうのは致し方ないだろう。
 私はここぞとばかりに、虎の威を借る狐になる。
 後退る革命軍の代表に向かい、元祖チートの顎の下を撫でながらきっぱりと告げた。

「私は、あなたでもカタリナさんでもなく、トラちゃんの意思を尊重します」