「これまで、心を閉ざしたお母さんを懸命に支えて守ってきたトラちゃんに、これ以上何かを強いることは──私には、できません」

 顔を上げてそう言う私に、革命軍の代表はわずかに怯んだ。
 子ネコ達がぎゅっとくっ付いてくる。
 それに励まされた私は、毅然として続けた。

「トラちゃんは、これまで十分すぎるほど頑張ってきたと思います。彼との関係改善を望むのなら、まずはカタリナさん自身に行動を促すべきではありませんか?」
「いや、それが……カタリナは昔から人見知りをするおとなしい子でして。トライアンはきっと自分を憎んでいるのだと言って泣くばかりで、食事も喉を通らず……」

 そんな妹を、目の前の男は私利私欲のために無理矢理国王に差し出したのだ。
 向こう脛を蹴ってやりたい気分になった。
 私も超が付く人見知りだったから、カタリナさんの気持ちはわかる。
 けれど……

「トラちゃん自身がカタリナさんに会うと決めた上で、同行を求められれば喜んでついていきますが……私から彼に行動を促すつもりは、ありません」
「そ、そこを何とか! トライアンはあなたに随分懐いているそうではありませんか! あなたが説得してくれれば、あの子だって……」

 なかなか引き下がらない相手に、私はため息を吐きたい気分になった。

「どうして、当事者であるカタリナさんではなく、トラちゃんを説得しようとするんですか。私に至っては、思い切り部外者ですよ?」
「いや、それは……カタリナには、無理を強いて辛い思いをさせてしまいましたし……」
「あなたがカタリナさんに負い目があるのはわかりました。でも、トラちゃんに針の筵のような王宮でヤングケアラーをさせていたことには、伯父として罪悪感を覚えないんですか?」
「え、や、やんぐ……って、何ですか? いや、トライアンにも申し訳ないことをしたとは、思ってはいるんですが……」

 もごもごと歯切れの悪い相手に、私は塩っぱい顔になる。
 見かねた大佐が、革命軍の代表に諦めるように告げ、私を解放しようとした。

「ま、待ってください! まだ話は終わっては──」