「すっかり消沈してしまっていますが、落ち着いてはいるようでした」
「そうですか……殿下は、反抗や逃亡よりも自害を心配して見張りを付けている、とおっしゃっていましたが……」

 ベルンハルト王国への護送が決まった元ラーガスト王太子マルカリヤンは、総督府の一室に軟禁されている。
 ミケやロメリアさん、そして腹違いの弟トラちゃんと同じく、ネコ達ではなく私のなけなしのフェロモンに反応する彼は、私の頭を無言でひたすらなでなでした後は、少しだけ顔色がよくなった。
 革命軍の代表に呼び止められたのは、そんなマルカリヤンの部屋から出てすぐのこと。
 彼は、トラちゃんとその母カタリナさんの仲を取り持つよう頼んできたのだが……私は、前述の通りこれを断った。
 
「せっかく母君が正気に戻ったものの、トライアン殿下は初日に顔を合わせて以来、一度も彼女に会いに行っていないそうなんですよ」

 大佐が補足するように言う。
 彼自身は、私に何が何でも革命軍の代表の頼みを聞かせようと考えているわけではなさそうだった。
 そんな中、大佐を押し退ける勢いで前に出てきた革命軍の代表が、捲し立てる。

「カタリナは、自分が母親らしいことを何もできず、トライアンに苦労を強いてしまったことを悔いているのです! 私は、そんな妹がかわいそうでならず……。どうかトライアンと一緒に、カタリナを慰めてやっていただけませんか!?」

 その剣幕に驚いたらしい子ネコ達が、一斉に私の方へ戻ってきた。
 そうして、密かに唇を噛み締める私の顔を、気遣わしそうに覗き込んでくる。

(確かに……若くして望まない結婚を強いられてトラちゃんを産み、王宮での凄惨ないじめを経験したカタリナさんには同情を覚える)

 それでも……