「ベルンハルトは、私から次の玉座を取り上げたんだ! 代わりに、私はお前の首をもらおうじゃないか!」
「断る! そもそも、ラーガストが戦争を仕掛けてきたから、こんなことになったんだろうが!」
「知るものか! 父が……国王がそうすると決めたならば、我々はただ従わねばならなかった!」
「ふざけるな! ラーガスト国王たった一人の気まぐれで、どれだけの人間が辛酸を嘗めたと思っている! ベルンハルトの民だけではない! ラーガストの──貴様の同胞もだぞっ!」

 お互いの刃越しに、ミケとマルカリヤンが怒鳴り合う。
 しかし、最初の体勢が悪かったものだから、上から体重をかけるように押してくるマルカリヤンにミケは苦戦していた。
 
「ラーガストは負け、王家は滅び──私は、国王となる道を閉ざされた! 父の長子として生まれた私には、この生き方しかなかったというのになっ……!」

 まるで、本心では王太子となることも望んでいなかったような物言いだが、それに戸惑っている余裕はない。
 マルカリヤンの剣を受け止めているミケの刃が、ギチギチと嫌な音を立てた──その時である。

『かーちゃあああああんっ!』
『珠子姉様っ! ご無事ですのっ!?』

 バルコニーの柵の向こうからぴょーんと飛び込んできたのは、ベンガルっぽいのと、その名の通りソマリっぽいの──チートとソマリだ。
 私達に加勢しようと、一気に外壁を駆け上がってきたらしい。

『女のひとを人質にするなんて、風上にも置けないにゃん!』
『まったくですわ! 恥を知りなさいな!』

 二匹は、人質を取っていたマルカリヤンの部下達の顔面に飛びつくと、めちゃくちゃに引っ掻く。
 その隙に逃げ出したカタリナさんとメイドの少女は、准将と大佐がすぐさま保護した。
 残るは、ミケと鍔迫り合いを続けるマルカリヤンだけとなったが──こちらにも、まさかの援軍が現れる。