「いやっ、いやだ……いやだいやだっ!! もう、誰も傷つけたくないっ!!」
「敵に一矢報いることもできず捕虜になって、恥ずかしくないのか」
「ぼ、ぼく、僕はっ……あの時、あなたに抗えなかった自分こそが、恥ずかしい! そのせいで、僕は……敵じゃなく、何の関係もない人を傷つけてしまった!」
「……何の関係もない人?」

 後悔と罪悪感に満ちたトラちゃんの瞳が、縋るように私を見る。
 マルカリヤンは訝しい顔をしたが、トラちゃんの視線を辿って私と目が合うと、片眉を上げた。

「……なんだ。お前が刺されたのか?」
「あっ、いえ……それは、ですね……」
「そうかそうか、なるほどな──かわいそうに」
「は……?」

 よしよし、と唐突に頭を撫でられる。
 自分が刺されるなんてことになった、元凶にだ。
 全然うれしくないし場違いにもほどがある。
 唖然として言葉も出ない私に代わり、ネコが怒りを爆発させた。

『はぁあああ!? なんじゃあ、貴様っ! かわいそうなどと、いったいどの口が言うんじゃ! ぜーんぶ、貴様のせいじゃろうが! おい、王子! さっさと珠子からあの野郎を引き剥がせ! これ以上は我慢ならんっ!!』
「……同感だな」

 肩の上で荒ぶるネコを撫でながら、ミケの目は据わり切っている。
 准将がトラちゃんを宥めて再び背中に隠したのを見届けると、ミケは改めてマルカリヤンに対峙した。