「なぜ──なぜだ! ベルンハルト王国軍は峠を越えられず、山の向こうまで戻って迂回させられたはずだ! ここに来るまで、まだ三時間はかかるっ……!」
「迂回したのではなく、最初から予定とは異なる経路で山を越えてきたんだ──貴様らの妨害を予測してな」
「なんだと……?」

 夜にこそこそ行動する人間達を目撃したという元祖チートの証言から、ラーガスト王国軍の残党が何かを企んでいると予測したミケは、総督府への経路を変更するようミットー公爵に指示を出した。
 山向こうまでを縄張りとする元祖チートに、指示書と使者を託して。
 指示書は、あの時足下に落ちていた葉っぱを利用した。
 件の葉は、小枝の先など尖ったものでなぞると、その部分が変色して茶色いペンで字を書いたようになるのだ。
 そして、使者は……


「──タマコ!」


 最近ネコの首の後ろにできていた、あの毛玉である。
 その子は、准将とともに三階まで駆け上がってきたトラちゃんの肩に乗っていた。