ドドドドッと地鳴りような音を引き連れて、濃紺の軍服の一団が丘を越えてくる。
 決して少なくはない軍勢が、土埃を上げて総督府に迫っていた。
 不穏な足音に気づき、総督府を守るベルンハルト王国軍の武官達は一斉に臨戦体制に入る。
 門を死守しようと駆け寄る者もいれば、ラーガストの民間人を建物内に避難させようと奮闘する者もいた。
 騒然とする総督府、そして今まさにそこに突入しようとする味方の軍勢を見下ろし、マルカリヤンはさも面白そうに言う。

「我がラーガストとベルンハルトの記念すべき第二回戦の始まりだ。今度は我らがここを拠点にして、ベルンハルトに攻め込んでやる──お前の首を旗印にしてな」

 頭の上で語られる、ミケに対する濃厚な悪意と殺意に、私は身震いした。

(どうにかして、ミケを逃さないと……!)

 そうは思いつつも、どうしたらいいのかがわからない。
 私は縋るようにミケを見て──目を、丸くした。
 彼が、マルカリヤンに負けず劣らず、自信に満ち満ちた笑みを浮かべていたからだ。

「マルカリヤン王太子殿下──いや、貴様はもはや、王太子でもなんでもなかったな」

 体裁を脱ぎ捨てたミケが、先ほどマルカリヤンが手を差し伸べて示した方に顎をしゃくって言った。


「よく見てみろ──第二回戦など始まるものか」