「おい、娘──お前、何やらいい匂いがするな?」
「ひい……! 気のせいですよぅ! に、匂い嗅がないで……!」
「いいや、気のせいではない。懐かしいような、心が落ち着くような……手放しがたい匂いだな。お前、何者だ?」
「し、しがない民間人です……」

 幸か不幸か。
 マルカリヤンは、ミケやトラちゃんやロメリアさんと同じタイプ──ネコではなく、私のフェロモンに反応する体質だったらしい。

『ばっかもーん、珠子ぉ! 敵を癒やしてどうするんじゃあああっ!』
「不可抗力だよぉ……」

 私を叱りつけるネコだって、マルカリヤンの部下にモフモフされている。
 カタリナさんやメイドの少女を捕まえた二人も寄ってきて、その真っ白い毛を撫で回し始めた。

「かわいい! かわいいかわいいかわいい!」
「いいにおい……しゅごぉい……」
「だっこ! だっこだっこ! だっこしたいっ!」

 おネコ様を前にして、彼らの語彙力も例外なく死に絶える。

「うっ、くそっ…!」

 中尉から悔しそうな呻き声が上がったが、人質を取られて手を出せないからであって、自分がネコをモフモフできないからではない……と思いたい。
 マルカリヤンは私の後頭部に鼻先を埋めて、くくっと笑った。