『むっふふふふ……刮目せよ、矮小な人間どもめ! このおネコ様の尊さに平伏すがいい!』

 フサフサの長いしっぽを揺らし、スーパーモデルのごとく優雅に闊歩するその姿に、将官達の目が釘付けになる。
 ミットー公爵もうっとりと目を細めつつ、カップを手に取った。
 
「こちらの世界にもネコに似た野生動物はおりますが、大型で獰猛ですのでとても人間の手には負えませんからね」
「その動物は、珍しいのですか? 私はまだ、見たことがありません」

 カップを傾けるミットー公爵に代わり、まだ口の中にハーブキャンディが残っている上、実は猫舌なミケが私の質問に答える。 

「やつらはレーヴェと呼ばれている。主に、森や高原を住処としているからな。まだ城下町から出たことがないタマには、目にする機会がないのも当然だ」

 私がこの世界にやってきた時、ミケは隣国ラーガスト王国の郊外に張られたベルンハルト王国軍のテントにいた。
 その膝の上で負傷した私は、終戦とともにベルンハルト王国の王都に運ばれたため、厳密に言えば森や高原を通っていることになる。
 ただし、元の世界で後頭部に衝撃を受けて以降、王宮のベッドの上で目覚めるまで一切意識がなかったため、ミケが言うようにレーヴェなる動物を見るチャンスはなかった。