「私も混乱していて……ひどい言葉を口にしてしまったことを、後悔しているんです。あなたに、トライアンの前ではいけないと教えてもらえて、よかった……」
カタリナさんは、正気を失っていた間の記憶が何もないわけではないらしい。
最初は、トラちゃんを産んだばかりの頃の少女のようだったが、心が落ち着くにつれて顔つきも話し方も年相応に変化していった。
そうして今、ネコと戯れるメイドの少女を見守り、一人息子に思いを馳せる表情は、母親のそれになっている。
「私はずっと、自分だけが不幸だと思っていたんです。でも、一番辛い思いをしたのは、母親さえも頼りにできなかったトライアンだわ。あの子には、本当に申し訳ないことをしてしまいました……」
「やり直す時間は、これからたくさんありますよ。もうすぐトラちゃんも到着するでしょうから、どうかたくさん労ってあげてください」
「その……〝トラちゃん〟って呼び方……」
「あっ、すみません! 息子さんに対して、馴れ馴れしかったですね!」
慌てる私に、カタリナさんはまた首を横に振った。
「そうやって、あの子を呼んでもらえていたんだと思うと……私が言うのは烏滸がましいかもしれませんが、うれしいんです。私は、今までほとんどあの子の名を呼べていませんから」
消沈して言うのを見て、心を病んでいたのだから仕方がない、と思いかけたが……
「トライアンというのは……陛下が付けてくださった名前なんです。私は、陛下に身を委ねること自体が本意ではなかったものですから、トライアンの名前も素直に受け入れることができませんでしたが……」
それを聞いて、私の体が強張る。
カタリナさんは、そんな私に気づかないまま続けた。
「陛下が……父親があの子にくださった、たった一つの贈りものですもの。私も、大事にしないといけませんね」
「そう……ですね……」
カタリナさんは、正気を失っていた間の記憶が何もないわけではないらしい。
最初は、トラちゃんを産んだばかりの頃の少女のようだったが、心が落ち着くにつれて顔つきも話し方も年相応に変化していった。
そうして今、ネコと戯れるメイドの少女を見守り、一人息子に思いを馳せる表情は、母親のそれになっている。
「私はずっと、自分だけが不幸だと思っていたんです。でも、一番辛い思いをしたのは、母親さえも頼りにできなかったトライアンだわ。あの子には、本当に申し訳ないことをしてしまいました……」
「やり直す時間は、これからたくさんありますよ。もうすぐトラちゃんも到着するでしょうから、どうかたくさん労ってあげてください」
「その……〝トラちゃん〟って呼び方……」
「あっ、すみません! 息子さんに対して、馴れ馴れしかったですね!」
慌てる私に、カタリナさんはまた首を横に振った。
「そうやって、あの子を呼んでもらえていたんだと思うと……私が言うのは烏滸がましいかもしれませんが、うれしいんです。私は、今までほとんどあの子の名を呼べていませんから」
消沈して言うのを見て、心を病んでいたのだから仕方がない、と思いかけたが……
「トライアンというのは……陛下が付けてくださった名前なんです。私は、陛下に身を委ねること自体が本意ではなかったものですから、トライアンの名前も素直に受け入れることができませんでしたが……」
それを聞いて、私の体が強張る。
カタリナさんは、そんな私に気づかないまま続けた。
「陛下が……父親があの子にくださった、たった一つの贈りものですもの。私も、大事にしないといけませんね」
「そう……ですね……」