「私が残党の立場ならば、ベルンハルト王国軍が峠道を迂回している間に、革命軍の代表を暗殺するとともに総督府を占拠する。そして、何も知らずに遅れてやってきたベルンハルト王子を拿捕、あるいは葬るだろうな」
「奴らが、今回我々が会談する目的を知っているとすれば……唯一の王家の生き残りであるトライアンを奪い、王家復興の旗印に据えるつもりやもしれません」

 ミケランゼロと革命軍代表の言葉に、部屋の空気はますます重くなった。
 そんな中、前者が後者に問う。

「残党を率いている者に心当たりは?」
「考えられるのは、親衛隊の生き残りでしょうか。ラーガスト王国軍の将官の生き残りはほぼ全員、戦後は革命軍側に回っておりますから。実際にベルンハルト王国軍と対戦した彼らは、無謀な戦争をしかけた国王に辟易しておりました」

 なお、そう言う革命軍代表も、元々はラーガスト王国軍の准将だった。
 皮肉なことに、妹を国王に差し出してのし上がった結果だ。

「何にしろ、いつ総督府が奇襲にあってもおかしくない。今すぐ全域に警戒体制を布き、戦えない者は建物内に避難させよう。門は、ベルンハルト王国軍が到着するまで閉じ──」

 ミケランゼロがそう言いかけた時だった。
 ヒヒン、という馬のいななきがその耳に届く。
 彼にとっては聞き慣れた何の変哲もないそれに、いやに興味を引かれた。

「殿下、いかがなされましたか?」

 大佐に不思議そうな顔をされつつ、ミケランゼロは吸い寄せられるように窓辺に移動する。
 三階の真ん中にある長官執務室からは、正門までが一望できる。
 ミケランゼロが階下を見下ろした時、ちょうど荷馬車が門を潜ったところだった。
 荷は、麦わらのようだ。総督府の敷地内で飼われている牛や馬の飼料や寝床として重宝される。
 ちょうど小麦の収穫が終わった時期であるため、真新しいものが一定量ずつ筒状に束ねられ、荷車の上に整然と積まれていた。

「一束は、ちょうど人一人分くらいの大きさだな……」

 そう呟いた瞬間、ミケランゼロははっとする。
 王都を出発した日の夜のこと──宿営地の領主屋敷にて、珠子の提案により、絨毯に包まれて姿を隠すことで肉食令嬢の目を欺いたことを思い出したのだった。