総督府となった屋敷はぐるりと高い塀で囲まれており、門ではベルンハルト王国軍の軍服を着た数名が検問を行っていた。
 ミケは私とネコを連れ、軍服の上着を脱いで検問の列に並ぶ。
 国軍元帥である彼の軍服は、他の軍人のそれとは色が違って目立つからだ。
 万が一、どこかに不穏分子が潜んでいる場合を想定し、用心してのことだった。
 そうして、ちょうど私達の番になる直前のことだ。

「……はっ? で、でん……ええっ!?」

 門の近くを通りかかった年嵩の武官が、ミケに気づいてぎょっとした。
 漫画みたいに二度見し、幻覚かもと言いたげにゴシゴシと両目を擦り──しかし、次の瞬間には何食わぬ顔をして検問担当に混ざると、さっさと手続きを済ませて私達を中に入れてくれる。
 そのまま先導して庭を歩き始めたが、人気のない場所までくると、バッと振り返ってミケの両手を握った。

「ででで、殿下、何事でございますか!?  と、供は? 軍はどうなされたのですっ!?」
「長らくの駐留ご苦労、大佐。驚かせてすまない。まあ、いろいろあってな……」

 ミケが大佐と呼んだ彼は、戦争終結後に赴任した、この総督府の最高責任者だった。
 息子のような年頃の王子が、供も連れずにやってきたことにたいそう驚いていたが、彼が怪我を負っている様子もないため、ひとまずほっとしたらしい。
 その興味は、同行した私とネコにも向いた。

「殿下、こちらのお嬢さんとモフモフの子は、もしやあの時の……」
「ああ、そうか……大佐も、あの時本陣にいたんだったな」
「ええ、殿下を凶刃から守ってくださった方ですね。すっぽんぽんで」
「わーっ!!」

 全裸で異世界転移したなんて、黒歴史すぎる。
 一つだけ何でも願いを叶えてやると言われたら、その瞬間のミケ達の記憶を改竄して、私に服を着せてもらいたいものだ。
 一方ネコは、俄然元気を取り戻した。
 羞恥に震える私の腕から大佐の腕へと飛び移り、にゃあん、にゃあん、と猫撫で声を上げ始める。
 ただし実際は……