「タマ、吸わせろ」
開口一番、とんでもないことを宣う相手に、私はとっさに扉を閉じようとした。
時刻は午後十時を回っている。
珍しくこんな時間に私の部屋を訪れたミケは、閉じかけた扉の隙間にガッと軍靴の先を突っ込んできた。
「わああ……ドラマとか漫画で見るやつだっ……」
そのまま強引に扉を開かれたのに慄きつつも、私は結局、彼を部屋に招き入れる他なかった。
ミケが、午後のお茶の時間に会った時よりも、さらに疲れた顔をしていたからだ。
「お、お茶でも飲みますか? あっ、侍従長さんにもらったワインもありますけど……」
「いらん」
「じゃ、じゃあ、クッキーは? 昼間に王妃様が焼いてくださったんです。糖分は、疲労回復に即効性があると聞いたことが……」
「いらん。タマがいい」
ミケの隣に部屋を与えられて半年あまり経つが、私が自分で選んだ家具はたった一つ、真っ白いシートの二人掛けソファだけ。
ロメリアさんに招待されてミットー公爵家にお邪魔した時、彼女の私室に置かれていたものだが、私が一目惚れしたのに気づいて譲ってくれたのだ。
背もたれが貝殻みたいな形をしているのと、猫足なのがポイントである。
そんなキュートな姫系ソファに、どっかりと腰を下ろした正真正銘の王子様は──非常に残念なことに、過去最高に目が据わり切っていた。
つまり、ギャップがすごい。
「これ絶対、めちゃくちゃに吸われないといけないやつだー……」
『よっしゃあ、珠子ぉ! あいつから負の感情をどんどん引き剥がせい! 夜食の時間じゃああっ!』
開口一番、とんでもないことを宣う相手に、私はとっさに扉を閉じようとした。
時刻は午後十時を回っている。
珍しくこんな時間に私の部屋を訪れたミケは、閉じかけた扉の隙間にガッと軍靴の先を突っ込んできた。
「わああ……ドラマとか漫画で見るやつだっ……」
そのまま強引に扉を開かれたのに慄きつつも、私は結局、彼を部屋に招き入れる他なかった。
ミケが、午後のお茶の時間に会った時よりも、さらに疲れた顔をしていたからだ。
「お、お茶でも飲みますか? あっ、侍従長さんにもらったワインもありますけど……」
「いらん」
「じゃ、じゃあ、クッキーは? 昼間に王妃様が焼いてくださったんです。糖分は、疲労回復に即効性があると聞いたことが……」
「いらん。タマがいい」
ミケの隣に部屋を与えられて半年あまり経つが、私が自分で選んだ家具はたった一つ、真っ白いシートの二人掛けソファだけ。
ロメリアさんに招待されてミットー公爵家にお邪魔した時、彼女の私室に置かれていたものだが、私が一目惚れしたのに気づいて譲ってくれたのだ。
背もたれが貝殻みたいな形をしているのと、猫足なのがポイントである。
そんなキュートな姫系ソファに、どっかりと腰を下ろした正真正銘の王子様は──非常に残念なことに、過去最高に目が据わり切っていた。
つまり、ギャップがすごい。
「これ絶対、めちゃくちゃに吸われないといけないやつだー……」
『よっしゃあ、珠子ぉ! あいつから負の感情をどんどん引き剥がせい! 夜食の時間じゃああっ!』