「ギャッ!!」

 レーヴェはビョーンと飛び上がって、あっけなく茂みの向こうへ逃げていってしまった。
 バキバキと草木が踏み荒らされる音が遠のき、やがて静けさが戻ってくる。

「……やれやれ」

 大きくため息を吐いたミケが剣を鞘に戻すと同時に、張り詰めていた空気がようやく緩んだ。

『ふんっ! しっぽを巻いて逃げよったわ! たわいないなっ!!』
「あー、こわかったー」

 ネコが毛を膨らませるのをやめ、准将は眉を八の字にしながら剣を収める。
 メルさんも緊張の糸が切れた様子で地面に崩れ落ち、ロメリアさんは静かな目でそれを見つめていた。

『さて……メルにはどんな沙汰が下るのでしょう。まあ、何があってもわたくしは彼女の味方ですけれど』

 私の腕の中のソマリは、ロメリアさんよろしくツンと澄まして言う。
 そして、私はというと……

「わーん、ミケー! レーヴェがあんなのだとは思いませんでした! 探しに行くって言った時、止めてくださってありがとうございますー!」
「確かに、レーヴェの話は後で聞くとは言ったがな。この状況で第一声がそれか?」
『まーったく、珠子は! 緊張感のない子じゃわいっ!』

 ミケとネコが呆れた風に言いつつも、馬を降りてこちらに歩いてくる。
 ロメリアさんがすかさずそれに続き、うっかり出遅れた准将は全員の分の手綱を持たされてしまった。
 私もミケ達に駆け寄るため、立ち上がろうと地面に片手を突いた──その時。

「え……?」