『おいこら、デカいの! 我の娘達に手を出そうとしたこと、後悔させてやるぞっ!!』

 フーッと全身の毛を逆立てて威嚇する姿は、普段の一回りも二回りも大きく、かつ頼もしく見えた。
 そんな中、くっ付いたままだったメルさんの体がビクリと震える。

「ロメリア、さま……」

 ミケが出てきた茂みの向こうから、同じく馬に跨った准将と、さらにロメリアが続いた。
 ロメリアさんは自身も馬に跨りつつ、さきほどオオカミに襲われて走っていってしまったメルさんの愛馬の手綱を持っている。

「グルグル……グルグル……」

 そうこうしているうちに、レーヴェが血の泡を吐きつつヨロヨロと立ち上がった。
 軍馬の強烈な一撃を横っ腹にもろに食らった上、急所である鼻をネコにしこたま噛まれて、かなりのダメージを受けているようだ。
 血走った目でミケ達を睨みつけ、低く唸り声を上げる。
 ミケはその目をじっと見つめつつ、馬上で剣を抜いた。

「そうだ、こっちを見ていろ──私が、お前の相手だ」

 さらに、准将も剣を抜いて馬首を並べれば、レーヴェは二人の間で視線をうろうろさせた。
 レーヴェほどの猛獣でも、軍馬に乗ったミケや准将を相手にするのは容易ではないのだろう。
 ミケが一歩馬を進めれば、ついにじりじりと後退りを始める。
 それでもなお、レーヴェは燃えるような目で馬上の人間達を睨みつけていた。

「……っ、今のうちに! タマコ嬢は、ソマリと一緒にここを動かないでくださいね!」
「メ、メルさんっ!?」

 突破口を開いたのは、メルさんだった。
 メルさんは私とソマリをその場に残して駆け出すと、落ちていた剣を拾ってレーヴェに向かって投げつける。
 それが前足を掠めて地面を抉ったとたんだった。