「ソマリをネコさんに……タマコ嬢は殿下に、絶対にお返ししなければ……っ!」
「メ、メルさん……」
美しい顔を土で汚し、こめかみからは血を流し、なおかつブルブルと震えながらも、彼女は懸命に私とソマリを守ろうとしてくれていた。
絶体絶命である。
このままなすすべもなく、レーヴェに引き裂かれるのを待つのか。あるいは……
(一か八か、崖から飛び下りる……?)
しかし、おそるおそる覗いた崖の下は、土が剥き出しの地面だ。
これが、川や茂みならば落ちても生き残れる可能性があっただろうが──完全に、望みは絶たれた。
「ネコ……トラちゃん……ロメリアさん……」
もはや、これまでか。
そう思った時、走馬灯のごとく私の脳裏に浮かんだのは、元の世界の誰でもなく、まだ半年あまりの付き合いしかない相手ばかりだった。
中でも心残りなのは、翌朝には元気な顔を見せるという約束を果たせなかった相手──
「ミケ……」
私とソマリをぎゅっと抱き締め、ロメリア様、ごめんなさい、と呟くメルさんの声が胸を打つ。
私達のすぐ後ろが崖なのがわかっているらしいレーヴェは、勢いよく飛びついて来ようとはしなかった。
ただ、猫が追い詰めた鼠をいたぶるみたいに、意地悪そうに目を細めて怯える私達を矯めつ眇めつ眺めている。
(こわい……いやだ、いやだ……)
レーヴェが恐ろしくて、死ぬのが怖かった。
何より、ミケ達ともう会えないのかと思うと、辛くて、悲しくて──絶望を覚える。
すぐ側にあるソマリの体は柔らかくてふわふわで、ちゃんと日干ししたお布団みたいないい匂いがするのに、私が慰められることは少しもなかった。
やがて、鋭い爪を携えたレーヴェの足が大きく前へ踏み出す。
「……っ!」
いよいよ襲いくるであろう衝撃に備え、私達が全身を硬らせた──その時だった。
「メ、メルさん……」
美しい顔を土で汚し、こめかみからは血を流し、なおかつブルブルと震えながらも、彼女は懸命に私とソマリを守ろうとしてくれていた。
絶体絶命である。
このままなすすべもなく、レーヴェに引き裂かれるのを待つのか。あるいは……
(一か八か、崖から飛び下りる……?)
しかし、おそるおそる覗いた崖の下は、土が剥き出しの地面だ。
これが、川や茂みならば落ちても生き残れる可能性があっただろうが──完全に、望みは絶たれた。
「ネコ……トラちゃん……ロメリアさん……」
もはや、これまでか。
そう思った時、走馬灯のごとく私の脳裏に浮かんだのは、元の世界の誰でもなく、まだ半年あまりの付き合いしかない相手ばかりだった。
中でも心残りなのは、翌朝には元気な顔を見せるという約束を果たせなかった相手──
「ミケ……」
私とソマリをぎゅっと抱き締め、ロメリア様、ごめんなさい、と呟くメルさんの声が胸を打つ。
私達のすぐ後ろが崖なのがわかっているらしいレーヴェは、勢いよく飛びついて来ようとはしなかった。
ただ、猫が追い詰めた鼠をいたぶるみたいに、意地悪そうに目を細めて怯える私達を矯めつ眇めつ眺めている。
(こわい……いやだ、いやだ……)
レーヴェが恐ろしくて、死ぬのが怖かった。
何より、ミケ達ともう会えないのかと思うと、辛くて、悲しくて──絶望を覚える。
すぐ側にあるソマリの体は柔らかくてふわふわで、ちゃんと日干ししたお布団みたいないい匂いがするのに、私が慰められることは少しもなかった。
やがて、鋭い爪を携えたレーヴェの足が大きく前へ踏み出す。
「……っ!」
いよいよ襲いくるであろう衝撃に備え、私達が全身を硬らせた──その時だった。