人気のない森の中を直走っていた私達は、突如オオカミの群れに遭遇する。
 早々に後ろ足に噛みつかれた馬は、どうにかこうにかそれを振り払ったものの、ついでに背中に乗っていた人間達も振り落としてしまった。
 パニックになった馬はその場でひと暴れした後、元来た方向に駆けていく。
 一方、置いていかれた私とメルさんとソマリはというと……

「メルさん! 私、自分が木登りできること初めて知りました!」
「ええ、ええ! とてもお上手でしたよ、タマコ嬢!」
『ちょっと、お二人とも! そんな呑気なことを言っている場合ではありませんわ!』

 暴れる馬にオオカミ達が怯んでいる隙に、近くにあった大きな樫の木に登って彼らの牙から逃れた。
 オオカミは全部で十頭。
 フンフンと鼻を鳴らしつつ、木の根元をぐるぐると回っている。

『オオカミが木登りできなくて、ようございましたわね』
「オオカミが諦めるのを待つか、他の誰かが通りかかるのを待つか、ですね。人数が多ければ、オオカミには対処できないこともありません」
「うう……誰か来てくれますかね……?」

 さてはてどうしたものか、と私達が額を寄せ合った時だった。
 ふいに、オオカミ達の視線が逸れたかと思ったら、彼らは一斉に姿勢を低くしてウーウーと唸り出したのだ。

「──何か、きます」

 メルさんが硬い声で呟く。
 ソマリは耳を平たく倒して両目をまん丸にした。『いやですわ……やばいやつですわ』
「な、何……? 今度は、何が来るの……?」

 辺りは異様な雰囲気に包まれ、私の心臓はバクバクとうるさいほどに脈打つ。
 やがて、馬が駆けていったのとは反対の方角の茂みから、それはのっそりと現れた。