「丸っぽいくさび形の顔に、ふさふさのしっぽ……何だか、ソマリみたいな子だなぁ」
「ソマリ……可愛らしい名ですね」

 ソマリはアビシニアンの長毛種で、その豊かなしっぽから〝狐のような猫〟と表されることもある。
 スレンダーでシルクのような手触りの毛並みをした、実に美しい猫だ。
 メルさんは、ソマリという響きをすっかり気に入ったらしく、そのまま名前に採用してしまった。
 ソマリはメルさんに頬を擦り寄せ、にゃあ、と甘えた声で鳴く。

「ソマリ……ミットー公爵閣下のチートのように、あなたは私の側にいてくれますか?」
『よろしくってよ。わたくしが、メルの中の黒いものをみんな食べて差し上げますわ──一生』
「あ、これ……ネコが知ったらまた発狂するやつだ……」

 かくして、私とメルさんによる女二人旅は、このロメリアさんをリスペクトしまくったソマリを加えた女二人と一匹旅に変更され、ラーガスト王国との国境を目指すこととなる。
 親切な司祭に対しては心ばかりの寄付を預けるとともに、ソマリが朝食代わりにごっそり負の感情を食らった。
 馬にはまだ少しも乗り慣れなかったが、メルさんが折り畳んだ布を敷いてくれたため、お尻の痛みは幾分軽減された。
 ソマリは、メルさんの肩の上でうまい具合にバランスを取りつつ、耳をあちこちに向けて警戒している。
 それが横にピンと張ったイカ耳になったのは、国境までもう少しというところまで来た時だった。

『珠子姉様、メル──やばいですわよ』