彼女は一瞬悲しそうな顔をしたが、すっと立ち上がって私に向き直った時、その表情にもう迷いはなかった。
 私がベッドの縁に腰掛けると、メルさんはその前の床に片膝を突く。

「私情に巻き込んでしまって申し訳ありません、タマコ嬢。総督府に着くまで、あなたのことはこの命に代えてもお守りします」
「でも、メルさんが本当に守りたいのは、私ではなくロメリアさんですよね?」
「……驚きました。タマコ嬢も、意地悪を言うんですね?」
「そうですよ。私は、ロメリアさんみたいに人間ができていませんので」

 とたんにメルさんが、あははっ、と声を立てて笑う。
 常に慎ましく微笑むばかりだった彼女が、初めて見せてくれた屈託のない笑みを、私はたまらなく愛おしく感じた。

「ロメリア様はご存知の通りの物言いをなさるので、誤解を受けることが多いのですが?」
「確かに、ツンツンしてて言葉はきついですけど……でも、裏表がなくて、姑息な真似は絶対なさらないし、推せます」
「そう──そうなんです! ロメリア様は本当は思慮深くて情の厚い、まっすぐな方なんです! タマコ嬢に理解していただけて、うれしい……!」
「メルさんが同担拒否じゃなくてよかった」

 ロメリアさんの話題で盛り上がる私達をよそに、子ネコが大欠伸をする。

 メルさんの負の感情をたらふく食べて、その子はさらに大きくなっていた。