「みゃーおっ!」
突然、子ネコが勇ましい鳴き声を上げた。
後ろ足で力強く飛び上がり、メルさんから出てきた黒い綿毛に食らい付く。
そうしてあっという間に、自分の体よりも大きいそれを丸呑みにしてしまった。
同時に、メルさんの背筋がすっと伸びる。
背後に陣取る私には、彼女がどんな表情をしているのかは見えない。
だが、想像するのは難しくなかった。
「私は……愛されたいと願う一方で、憎んでおりました。父のことも、母を追い詰めた祖母のことも、ヒバートという家そのものを。だから──潰したいのです。徹底的に」
おそらく、メルさんが抱えていた最も大きな負の感情がこれだったのだろう。
それを吐き出した彼女は今、きっと憑き物が取れたような顔をしているに違いない。
メルさんは、私を攫うことで自らを罪人に貶め、ヒバート家を道連れにする決意をしていた。
「タマコ嬢、私はこのままラーガストに入り、あなたを総督府までお連れいたします。そこで洗いざらい罪を告白し、沙汰を受ける所存にございます」
「本当に、それしか方法はありませんか? 今からでも、ミケ達と合流しましょうよ。私が、メルさんに馬に乗せてほしいとわがままを言って、そのまま逸れたことにすれば……」
「そのような言い訳は、殿下には通じませんよ。何より、私のためにあなたに嘘などつかせるわけには参りません」
「メルさん……」
鋏の先を使って毛先の長さを整えて、散髪は終了する。
私が切り落とした髪をこぼさないように慎重にケープを取ると、メルさんは恐る恐るといった様子で襟足に触れた。
直毛だと思っていた彼女の髪は、短くすると少しクセが出るらしく、素人の私が切ったにもかかわらず、丸いシルエットのキュートなショートヘアに仕上がった。
メルさんも、窓に映った自身の姿を見て満足そうに笑う。
「ふふ、頭が軽い。素敵にしてくださって、ありがとうございます、タマコ嬢。ロメリア様がご覧になったら、なんとおっしゃ……」
言いかけて、メルさんは口を噤む。
「ロメリア様にも、ご迷惑をおかけしてしまいますね……」