「正直に申し上げます、タマコ嬢。要塞から連れ出す時──本当は、あなたを殺すつもりでおりました」
「……っ」

 首のすぐ側で鋭利な刃物を使っている時に──簡単にメルさんの命を奪える状況でわざわざ告白したのは、私に刺される覚悟ができているという、無言の意思表示だろう。
 私は、鋏を持つ手が震えそうになるのを必死で堪えた。
 メルさんは逆に、落ち着いた声で続ける。

「でも、先ほども申し上げた通りです。あなたを殺すことなんて、できるはずがありませんでした。代わりに、私はこれまでの自分を捨てるつもりで、髪を切ったのです。髪の短い貴族の女に、縁談などこないでしょうから」

 つまり、あの時点でメルさんは父親の呪縛から解き放たれていたとも言える。
 だとしたら、ミケ達が起き出す前に、私をつれて何事もなかったように要塞に戻ればよかったのではなかろうか。
 シャキシャキと鋏を動かしつつそう口にする私に、メルさんも小さく頷く。

「私も、なぜそうしなかったのだろうと疑問に思っていたのです。でも、わかりました」

 その時だった。
 一際大きな黒い綿毛が、メルさんの胸から染み出してくる。