「あの、タマコ嬢……これは?」

 やがて、子ネコを回収して扉を閉めたメルさんは、司祭から受け取ったものを眺めて首を傾げる。
 そんな彼女に向かって、私は気持ちを切り替えるみたいに声を明るくして言った。

「メルさん、髪を整えてもいいですか?」

 司祭が持ってきてくれたのは、ケープの代わりとなる古布と櫛、そして細長い刃をした鋏だった。
 というのも、ナイフでざっくりと切り落とされたメルさんの髪は、長さがまちまちになっていたのだ。
 馬で駆けている時は気にならなかったものの、こうして見るとやはり不自然である。
 
「元の世界の勤め先では、長毛種の猫のトリミング……散髪をすることもあったんです。簡単でもよろしければ、任せてもらえませんか?」
「……お願い、します」

 かくして、ベッドに座るメルさんの背後に陣取った私は、彼女の肩にケープ代わりの古布を巻き付け、右手に鋏、左手に櫛を構える。
 子ネコは最初、私の肩の上でそわそわしていたが、ほどなくして、またメルさんの方に飛び移っていった。
 髪を切るごとに、彼女の負の感情が次々に剥がれ落ち始めたからだ。

「みゃう! みゃあ、にゃああっ!」
「ふふ……元気な子ですね」

 ぴょんぴょんと自分の周りを跳ね回る子ネコを、メルさんは穏やかに見つめていたが、やがて意を決したように口を開く。