「メルさんを嫌いになんてなりませんし、恨んでもいませんよ」

 不思議と、メルさんを責めようという気は少しも起きない。
 一方で、身勝手な父親なんて早く見限ってしまえばいいのに、と焦ったくなる。

(メルさんほど強く美しい人なら、もっと自由にのびのびと生きられるはずなのに……)

 そう思ったが──私はやはり、口に出すことができなかった。
 メルさんが、ぽつりとこう言うからだ。

「自分の存在を、父に認めてもらいたかった……この期に及んでも、父に愛されたいという思いを捨てきれなかったのです……」
「それは、何も悪いことじゃないと思います。私も……」

 その時、コンコンとノックの音がして、一瞬にして表情を引き締めたメルさんが扉に駆け寄る。
 扉を叩いたのは、司祭だった。
 食事も風呂も寝床も惜しまず提供してくれた親切な司祭は、私がこっそり頼んでいたあるものを持ってきてくれたのだ。

「にゃう、にゃーうー」
「あらあら! まあまあ! かわいこちゃんねぇ!」

 お礼と言ってはなんだが、子ネコがたっぷりと愛嬌を振りまいた。
 司祭は、まるで赤ちゃんをあやすみたいに子ネコを抱っこし、しまいには子守唄まで歌い始める。
 優しそうなおばあさんと子ネコの組み合わせは尊く、見ていると心が洗われるようだった。