とはいえメルさんが言うには、ミケとロメリアさんはお互いをまったく異性として意識していないし、王家からミットー公爵家に婚約の話があったわけでもないらしい。

「私がお二人の仲を邪魔する以前の問題だと思うんですけど……」
「ええ、さようでございますね……」

 それを把握していながら、メルさんはどうして父親の命令を撥ね除けられないのか──なんて言葉は、私は到底口にできなかった。
 彼女が、苦しそうに言うからだ。

「わかっているのです……父の命令は理不尽で、無謀で、何の落ち度もないタマコ嬢を巻き込むなんて、間違っていることだと。でも、私は父に逆らえない、どうしても逆らえなかったんです……っ!」
「メルさん……」

 メルさんの母親が実家に戻った頃から、ヒバート男爵が卑屈になっていったという話は、王妃様から聞いたことがあったが……

「父と母が離婚に至ったのは、男児が生まれないことで、父方の祖母が母をひどく詰ったせいなんです」
「俗に言う、嫁姑問題ですね……」
「堪えかねた母が家を出ますと……父は、私が女に生まれたせいでこうなったのだと言って、私を責めるようになりました」
「そんな……」

 メルさんが男装をするようになったのも、そんな家庭環境が理由だった。

「男になれば……父が喜んでくれると思ったのですけれど……」

 そう言って、メルさんがまた悲しそうに笑うものだから、私は居た堪れなくなる。
 さっき振り落とされた子ネコが、再びメルさんの肩に上がって頬に擦り寄った。