絶句して青褪める私に、メルさんは慌てて首を横に振った。
 その拍子に、切りっぱなしの黒髪が当たって子ネコが振り落とされる。

「もちろん、そんなことはいたしません! タマコ嬢を殺すなんて……そんなこと、できるはずがない! ロメリア様は、あなたを大切に思っていらっしゃいますし、私だって……」
「よ、よよ、よかった……私も、メルさんが大切ですよ? ロメリアさんのことも!」

 しかし、納得がいかない。
 先日、メルさんへのひどい振る舞いを目撃したため、ヒバート男爵に対する好感度はマイナスに振り切っているが……

「そもそも私は、メルさんのお父様と面識がありません。恨まれるほどの接点はないはずなんですけど」

 そう訴える私に、メルさんは静かな声で答えた。

「いつぞや、王宮の庭で会ったようなご令嬢達と同じ……殿下がタマコ嬢を大切にしていらっしゃるのが、気に入らないのでございましょう。父は昔から、ロメリア様が殿下に嫁ぐことで、ミットー家の遠縁であるヒバート家も巨利を得られると信じ切っているのです」
「ミケは、私のお兄さんだったりお父さんだったりするだけなんですけど……ミケとロメリアさんが結婚するのに、私が邪魔だと思われてるってことですか?」
「少なくとも、父はそう考えているようです」