ミットー公爵と准将は、この時点ではまだ、ミケランゼロに珠子とメルを追わせていいものかと迷っていた。
 そんな中、ロメリアの手を振り払ったトライアンが、ミケランゼロに詰め寄る。
 そして、頭一つ分は背の高い彼の胸ぐらを両手で掴んだ。
 慌てて准将が止めに入ろうとするが、ミケランゼロは片手を掲げてそれを制す。

「僕も行く! 馬くらい一人で乗れるから、足手まといにはならないよ!」
「だめだ。連れていけない」
「なんでだよ! 僕だって、タマコのことが……」
「お前と私達の間には、信頼関係がないからだ」

 ミケランゼロに一蹴され、トライアンは唇を噛み締める。
 その悔しそうな顔を見下ろして、ミケランゼロは凪いだ声で続けた。
 
「──今は、の話だが」
「……えっ?」

 先日の御前試合の見学中、ロメリアにも同じように告げられたことをトライアンは思い出す。
 彼女は、今はまだ象徴的な国王としてしか意味をなさないトライアンも、これから多くを学んでいつか真の国王として立つ日が来るだろうと言った。
 敵対していたベルンハルト王国とラーガスト王国の関係改善も、今後それぞれの国を担うミケランゼロとトライアンが協力できれば、決して不可能ではないはずだ。
 そして……

(タマコも、それを望んでいた……)